ゆきこさんへ(1998.5.23)

ゆきこさん、わたしの幻の少女にきょうも手紙を書きます。

ある医者からラット(ねずみ)の実験の話を聞いたことがあります。

一匹のねずみに痛みを与え、そのねずみが見える位置にもう一匹のねずみを置くと、ストレスがより多くかかるのは、見ている方のねずみなのだそうです。

ねずみですらそうなのです。ましてわれわれは人間です。

ゆきこさん、今のわたしは、痛みに耐えるねずみを指をくわえて見ているねずみそのものです。わたしの言葉はあなたに届かないかもしれない。わたしは何もできないので、せめて自分のストレス軽減のためにこうして手紙を書いているだけなのかもしれません。

きのうの続きを書きましょうね。

援助交際は女の子たちだけの問題ではないと書きました。

援助交際をしている女の子たちは、やがてさまざまな理由で援助交際を止めるようになるでしょう。もしかすると、オヤジと結婚してしまうような人もいるかもしれない。(もちろん、もしそんな人がいたからと言って、それを買春夫の免罪符にしてもらっては困ります。)

彼ができて止めるようになるかもしませんし、ゆきこさんの言うようにバイトをするようになってやめるなんていう人もいるのかもしれません。(でも、ゆきこさんは、もうしてないよね? これはわたしの希望的観測かな?)バイトで稼ぐ金額と援助交際で稼げる金額にはかなりの落差があるのではないかとも思いますが、まぁとにかく、さまざまな理由でやめようと決心する日を迎えるでしょう。ゆきこさんのように、涙が流れる少女はわたしたち大人から見ればまだまし、なのですが、なかにはわれわれから見れば壊れているとしか思えないような感受性の女の子もいるのかもしれません。

しかしどんな女の子にせよ、恋をします。

それは、たぶん今までとは違った恋です。

その相手をどのくらい好きになるか、あるいはどれくらいその相手に想われるかは、いずれにせよ千差万別、運命のキューピッドは気まぐれそのものです。

ゆきこさん自身も今の彼に対して、今とは違った意味の愛情を抱くようになるかもしれませんし、あるいはもっと素敵な人が現れるかもしれません。実際、こと恋に関しては棚から牡丹餅というのは全くの夢ではありません。

ある野球選手のことが好きで、だれかれとなく紹介して欲しいとふれまわったところ、実際に紹介してくれる人があらわれて、その憧れの野球選手と結婚してしまった女性も世の中にはいるのです。

これからゆきこさんにちょっと酷なことを言います。

ゆきこさんが好きだなと想う誰かがゆきこさんの目の前に現れて、驚いたことにその彼もゆきこさんのことが好きだということがわかります。お互いに夢中になって、理想的な恋人同士になったとします。そのときに、ゆきこさんは彼に援助交際をしていたこと、でも今は止めているということをわかって貰いたいと思うかも知れません。あるいは、わたしのことが本当に好きなら、そんなことは気にせずに愛してくれるはずだと思うかも知れません。また、ゆきこさんは一言もそんなことを話していないのに誰かが告げ口するかもしれません。彼はどうするでしょう? 彼はそれでもゆきこさんを愛すると言うかも知れない。わたしもそう言ってくれることを祈らずにはいられませんが、もしかすると彼はゆきこさんへの愛と、援助交際でゆきこさんがつきあったオヤジどもの幻影に脅かされて、ひどいノイローゼになるかもしれない。あるいは、もっとあっさりゆきこさんの元を去って行くかもしれません。

親を騙し通すのとはわけが違うのです。

だったら、援助交際を続けたい? 

待ってください。わたしの話はまだ終わりません。

明日も手紙を書きます。

山口あずさ

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