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援助交際はなぜいけないか
- 「いけないに決まっているじゃないか。いったい今の若い者は何を考えているんだ」と、嘆息するのは簡単である。そんな言葉が当の彼らに届くのであれば、そもそもこんな馬鹿げた「言葉」の流行などないだろう。
- 「援助交際は売春である。だから、『援助交際』などという罪悪感の薄らぐような言葉遣いは止めて、『売春』は『売春』と言うようにしよう」、先の頭ごなしの発言よりは少しはましかもしれない。
- 買う大人が悪いとうい意見ももちろんある。これは至極まっとう。糾弾されてあたりまえだし、そういう人間に社会的地位と称されるようなものがあれば、どんどん剥奪すればいい。そんなものに同情する必要はかけらもない。その家族が恥をかくのもやむを得ない。自分の家族であろうが、恋人であろうが、そのような人間がいれば、その罪は償っていただく。でなければ、子供にもの申す資格などない。
- NHK教育TVでの十代の若者の発言。「やりたいやつは勝手にすればいい。自分はしないがしている人に対して何らかの意見を言うつもりはない」、もしくは、「過去に援助交際していた人は皆後悔しているし、その彼氏もひどく悩んでいる。しかし、後悔は後になってからでなくてはできないのだから、しょうがない」
- わたしが高校生の頃(ほぼ20年前!)、やはり女子高生の売春というのが話題になっていた。たまたま見ていたワイドショーで、インタビューを受けていた少女が言った。「お金くれるっていえば、みんないっちゃうよねー。クラスの半分くらいはいくと思うよ」。当時少女と同世代であったわたしは面食らった。クラスの半分が「いっちゃう」つまり「売春をする」という証言と、さえない制服を着て毎日学校に通っている自分やクラスメートがあまりにもかけ離れていたからだ。
- 恐らく、今も、二十年前も、大差はないのだろう。大半の女子高生にとっては、「援助交際」など無縁のことなのだろう。もっとも、当時売春がいけないと思うかと聞かれれば、当時の大半の少女は「いけないと思う」と答えただろう。理由はうまく説明できなかったかもしれないが。
- 二十年経って、かつて他ならぬ女子高校生だったことのあるわたしは、売春がなぜいけないか、答えられるようになっただろうか。前置きばかり長くなっていまったけれど、答えてみたいと思う。
- われわれのさまざまな肉体の器官の中で、最も精神に近いものが「生殖器」である。目でもない。耳でもない。口でも鼻でも、指先でもなく、最も精神と密接している。
- 人が誰かを好きになるとうのは、いったいどういうことなのか。他の誰でもなく、取り替えの効かない誰か。胸が痛くなったり、ドキドキしたり。キスをしたいと思ったり。「性」は決して罪悪などではない。われわれに最大の幸福をもたらしてくれるものの一つである。それを自ら踏みにじるような行いが、性欲に理性を失ったどこぞのおじさんに、ブランド物の服や化粧品と引き替えに、「お金」と引き替えに、自らの最大の幸福をくれてやるということがどれほど馬鹿げたことか、考えて欲しい。
- それでも、他人に迷惑を掛けているわけではない、放っておいてとあなたは言うかもしれない。それでは、もうひとつ考えて欲しい。
- あなたには、大切な人がいるだろうか。お母さんでも、お父さんでも、兄弟姉妹でも、友だちでも、もちろん恋人でもいい。片思いの誰かだっていい。誰もいないというなら、そいういう人がいたらいいな、とは思わないだろうか。そしてあなたの大切な誰かがあなたのことを同じように大切に思っているとしたら、それはとっても素敵なことだと思わないだろうか。あなたが「援助交際」という「売春行為」をすれば、あなたのことを大切に思っている誰かを傷つけることになるのだ。そして、この誰かには将来出会うことになる誰かも含まれている。人間はひとりぼっちで生きているのではない。自分のことを大切に思っている人を傷つけるような行いをすることを自由と呼ぶことはできない。従って疑いなく援助交際はいけないことである。
- 東京の両国という場所に「江戸東京博物館」という展示施設がある。十代のあなたはあまり興味がないかもしれないが、そこに吉原という遊郭に関する展示があった。貧しい農村などから売られてきた娘達が遊女となって合法的に売春をしていた場所である。この展示場のパネルにさらりと書かれた一行にわたしは思わず立ち止まった。
- 「遊女の平均寿命は二十一歳であった」
- 平均年齢の読み間違えかと思って、もう一度読み直した。「平均寿命」と書かれていた。
- 日本の歴史の中で、売春禁止法というのができたのは、つい最近のことである。この法律を作らなければならないと思って努力した人たちのことを思い浮かべて欲しい。吉原という場所で遊女として二十一歳でその生涯を終えるような人々のことを、他人のことだからと言って放っておくことはできなかったのだ。同じように、「援助交際」がいけないことだとわからないあなたを、われわれ大人は放っておくことはできない。何度でも重ねて言う。「援助交際」はいけないことである。あなたの幸福が奪われてゆくのを少なくともわたしは黙って見ているわけにはいかないのだ。
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山口あずさ
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